研究内容2–C MECI

2-C.化学概念(3)

 

円錐交差構造の支配因子

化学では、ポテンシャルエネルギー曲面(PES)上の特異点や複数のPESが交差する領域が重要である。PES上の極小点は分子の安定構造に対応し、分子の様々な性質を決定する。PES上の1次鞍点は遷移状態に対応し、化学反応の速度を支配する。交差領域、つまり円錐交差と項間交差は、分子の光物理特性と光化学反応に影響を与える。分子の安定構造や遷移状態は、電子状態理論に基づく化学結合論によって理解することができるが、円錐交差と項間交差の構造は何によって支配されているか不明であった。実際、一重項基底(S0)状態と最低一重項励起(S1)状態間の円錐交差(S0/S1 MECI)の構造は、S0状態の安定構造ともS1状態の安定構造とも大きく異なる(2-C-1)。

2-C-1

 

中井研究室では、凍結軌道解析(FZOAによる解析から、S0/S1 MECIではHOMOとLUMOの間の交換積分がゼロに近づくことを明らかにした(2-C-2)。一般に軌道の重なりが小さくなると、交換積分はゼロに近づくので、S0/S1 MECIではHOMOとLUMOが空間的に重ならない構造となる。環歪み、開環、π結合回転、σ解離はいずれもこれを満たしている。

2-C-2

 

重要文献

MECI

  • H. Nakai, M. Inamori, Y. Ikabata, Q. Wang, “Unveiling Controlling Factors of the S0/S1 Minimum Energy Conical Intersection: A Theoretical Study”, J. Phys. Chem. A, 122, 8905 (2018).
  • M. Inamori, Y. Ikabata, T. Yoshikawa, H. Nakai, “Unveiling controlling factors of the S0/S1 minimum energy conical intersection (2): Application to penalty function method”, J. Chem. Phys., 152, 144108 (2020).

<日本語解説>

  • 稲森 真由, 五十幡 康弘, 王 祺,中井 浩巳, “ポテンシャルエネルギー曲面の交差構造に関する理論的研究”, Comput. Chem. Jpn., 17, 124 (2018).