研究内容2–A π*-σ*

2-A.化学概念(1)

 

π*-σ*超共役

ブタジエンなどのように2つ以上のπ軌道が相互作用し、π電子が非局在化する現象を共役という。この概念をC-H間のσ軌道とC-C間のπ軌道との間の相互作用に拡張した概念が超共役である。トルエンの場合、C-Hのσ軌道とベンゼン環のπ*軌道が相互作用して安定化する。これらはいずれも基底状態における相互作用に対する概念である。

中井が早稲田大学着任時に藤井正明教授(当時、早稲田大学)から、トルエン誘導体のメチル基の内部回転障壁が基底状態と励起状態で全く異なる挙動をすることをご教授いただき、理論的に説明できないかという命題をいただいた。実際、励起状態においてメチル基の安定配向さえも変化する場合もある。メチル基内部回転のエネルギー障壁は数十~数百cm-1とかなり小さな値であるが、HF法でもまずまず再現することができた。そして、凍結軌道解析(FZOAを用いて解析すると、基底状態と励起状態におけるメチル基内部回転障壁の差は、HOMO-LUMOの軌道エネルギー差に由来していること、さらに、LUMOの軌道エネルギーの変化が主な原因であることが分かった(2-A-1)。そこで、LUMOに着目するとC-Hのσ*軌道とベンゼン環のπ*軌道の間に特殊な相互作用があり、これによりH原子とオルト位のC原子の間に非局在化による安定化が働くことが見い出された(2-A-2)。このように励起状態でみられる特殊な相互作用を、π*-σ*超共役と名付けた。我々がこの概念を理論的に提案した後に、実験研究による確認も報告されている。

2-A-1

 

 

2-A-2

 

重要文献

<π*-σ* Hyperconjugation

  • H. Nakai, M. Kawai, “Nature of the change in the rotational barrier of the methyl group due to S0 → S1 excitation”, Chem. Phys. Lett., 307, 272 (1999).
  • H. Nakai, M. Kawai, “π*-σ* Hyperconjugation mechanism on the rotational barrier of the methyl group (I): Substituted toluenes in the ground, excited, and anionic states”, J. Chem. Phys., 113, 2168 (2000).
  • H. Nakai, Y. Kawamura, “π*-σ* Hyperconjugation mechanism on the rotational barrier of the methyl group (II): 1- and 2-methylnaphthalenes in the S0, S1, C0, and A1 states”, Chem. Phys. Lett., 318, 298 (2000).
  • Y. Kawamura, T. Nagasawa, H. Nakai, “π*-σ* Hyperconjugation mechanism on the rotational barrier of the methyl group (III): methyl-azabenzenes in the ground, excited, and anionic states”, J. Chem. Phys., 114, 8357 (2001).