学部生向けQ&A

中井研Q&A (学部生向け)

中井研は化学・生命化学科で唯一の理論系研究室なので、3年生諸君には分かりにくい点も多いことでしょう。そこで、当研究室に関する疑問にQ&A形式でお答えします。


実験系の研究室と何か違うんですか?

我々の目指すところは、あくまでも化学現象の解明・新しい現象の発見であり、この点では実験系の研究室となんら変わりはありません。この目的を達成する方法として主として「理論」を用いる点で実験系研究室と異なっています。同時に、その可能性を拓くための新たな理論の建設もめざしています。私達はサイエンスとして面白いことをしていると自負しています。


理論のメリットは?

理論は、極低温・超高真空・超臨界・超高速など実験では取り扱いが困難な現象も研究できます。また、適用分野の制限もありません。有機化学・無機化学、あるいは、生命科学・表面科学・触媒科学・クラスター化学・電気化学などは、実際に中井研の研究対象となっています。そして何より、理論のメリットはメカニズムの解明や「なぜか」がわかることです。たとえば、反応の遷移状態や電子移動過程は重要であるにも拘わらず、実験では直接見ることができません。このように実験では反応の途中をブラックボックスとして扱うことが多々あります。一方、理論はこれらの情報をつぶさに与えてくれ、波動関数に立ちかえれば、化学現象の要因をいくらでも詳細に解明することができます。「なぜか」がわかって初めて、予測や設計ができるのです。


4年生のテーマは?

基本的には、一人一人独立したテーマが与えられます。それらは、どれも世界的に見てもハイレベルなものです。そして、私やスタッフとディスカッションしながら研究を進める体制をとります。4年生に与えられたテーマでも、努力次第でその研究成果が一流の学会誌に掲載される場合もあります。また、2000年度に新設された化学科卒論発表賞も、中井研から第1号と第3号、第7号、第9号、第12号、第15号、第17号が出ました。


大学院へ進学した方が良いんですか?

一般的に理論研究は、取っ付きにくい学問であると言えるでしょう。多くの場合、4年生では卒業研究を通してその楽しさを感じかけたところで終わります。そのため、大学院へ進学し、理論研究の醍醐味を味わってもらいたいものです。修士課程でしっかりと研究すると、企業における研究者としての道も開けるでしょう。特に最近は、企業における量子化学のニーズが高まっています。実際、ここ数年、中井研卒業生も量子化学の専門性を生かした就職をする人も増えています。しかし、量子化学に興味はあるが現実には独立した部署を持たない企業が多いのも事実です。そのような企業の方々と話すと、企業研究に量子化学を根付かせてくれる人材が欲しいとのことです。そのためには、確かな専門知識とそれを生かした豊富な研究実績が不可欠です。そのためには、博士課程での研究経験が必要になるかもしれません。もちろん、大学・研究所での研究者を目指す人には、博士号取得は必須です。


コンピュータの知識は必要ですか?

中井研では理論を具体化する道具として計算機を使います。ちょうど、計算機は実験でいうビーカーやフラスコに対応するもので、計算機の使用はそれらの器具を使った蒸留や再結晶に対応するものと考えていいでしょう。配属に際しては、計算機に対する特別な知識は必ずしも要求されませんが、配属後は必要に応じて勉強してもらいます。そのための講習会も予定しています。


講義との関連や配属後の勉強は?

講義で習った量子化学は、理論研究の基礎です。配属後、3月にはもう少しアドバンスな教科書 (例えば、A.ザボ、N.S.オストランド著、『新しい量子化学』、東京大学出版会) を読んでもらいます。私たちの研究室がカバーする領域は非常に広いので、各自のテーマによって有機化学、無機化学、物理化学、生化学、理論物理学などの講義が関連する場合も多々あります。配属後は、各自のテーマに関する論文 (主に英語) を読むことは必須です。


研究室のレベルは?

中井研究室もできて20年を超え、国内外で高い評価を受けるようになって来ました。特に、アクティビティとオリジナリティは、日本のみならず世界的にも認められています。私自身、2016年に「日本化学会第33回学術賞」と「平成28年度科学技術分野文部科学大臣表彰」という2つの賞をいただきました。学生やスタッフも国内外の様々な賞に数多く輝いています。しかし、まだまだ発展させたい研究テーマも多く抱えており、研究室のレベルは今後のメンバーの頑張りによりさらに上がっていくものと期待しています。 私自身のこれまでの研究に関して言うと、レベルの高さ、分野の広さ、そして何よりオリジナリティの高さは、日本および世界のビッグ・プロフェッサーと比較しても退けをとっていないと自負しています。また、これまでに配属された学生の頑張りもあって、新たに挑戦した分野でインパクトのある成果も出つつあります。


研究室の設備は?

スーパーコンピュータの演算能力に匹敵する高性能ワークステーションを100台以上所有しています。その他、端末などとして用いるパソコンも1人1台を原則として導入しています。また、「京」コンピュータ(理研)や名古屋大学や分子科学研究所の計算機センターのスーパーコンピュータも利用しています。また、早稲田大学における多くの研究室が抱える研究スペースの問題も、中井研はある程度、解消できています。それは上述のアクティビティと関係しています。つまり、中井研では企業との共同研究や国家的なプロジェクト研究を展開しており、それによりプロジェクト研究用のスペースを別途使用することが認められているのです。


研究室は厳しいですか?

原則としてコアタイム (朝10時~夕方5時) は研究室で研究することが決まっています。しかし、多くの学生は夜遅くまでは研究しています。ただ、これらは決して時間で拘束した結果ではありません。本人のやる気の結果です。時間で縛るとむしろ能率が落ちたり、そもそも自由な発想ができなかったりする恐れがあります。それよりもむしろ、中井研ではやる気を重んじています。ただ、自由と怠惰を勘違いしてもらっては困ります。研究に取り組む姿勢という点では、厳しさを要求します。特に、中井研では、研究のアウトプットにある一定のレベルが要求されます。それもかなり高いレベルです。必ずしも適切な表現ではありませんが、私はよく「帳尻を合わせ」と言います。それは、見えないが明確に存在する中井研スタンダードに達していない場合に使います。もちろん、そんなレベルははるかに超えている学生も多く居ます。そのような優秀な学生 (むしろ研究者と言うべき) には、さらに高いレベルの研究テーマを用意します。つまり、「中井研卒」ということで最低限のレベルは保証され、頭打ちになることも無い、そんな人材を輩出することを目指しています。そのために必要な厳しさは、メンバー全員が自覚しているのではないでしょうか。


研究室内のセミナーは?

研究室配属直後は、コンピュータや計算プログラムの使い方、最低限必要な理論の講習会を予定しています。その後は、1ヶ月に1回の割合で各班のデータ報告会を、毎週金曜日に全体ゼミを行い、研究の進展を図ります。データ報告会では、各々が自分のデータを中心に発表しディスカッションします。全体ゼミでは、当番が研究発表を行います。修士以上は原則として、英語で発表することになっています。研究発表は年間2回ぐらい行います。その他、学会前などはエクストラで発表練習を行います。


研究室の行事は?

研究意欲を高めるために、また、研究室内の結束を固めるために、さまざまなリフレッシュ行事を行っています。打ち上げと大掃除は、節目には必ず行っています。毎年、ゴールデンウィークに都内の公園でバーベキューをし、OB・OGとの交流の場にもなっています。夏にはゼミ合宿も行い、テーマ設定して重点的に勉強します。それらを通して、仲間意識も生まれます。このような行事は、学生主体で企画・運営されています。企画力・行動力を持った人は大歓迎です。私の信条は、「思いっきり遊べない人間は思いっきり仕事できない」です。


中井研向きのタイプとは?

研究室としては、いろんな背景を持った人がいるほど面白いので、皆さん大歓迎です。敢えて言うならば、まず自分に対してあきらめていない人、そして、他人に対して責任感のある人に来てもらいたいです。配属後、研究を進めていくと、いろいろな障壁にぶつかります。その場合、「自分の実力では無理だ」とあきらめてしまうとそれで終わりです。その障壁が4年生あるいは修士学生の力だけでは超えられない場合、当然私も参加して一緒に解決していきます。そんな場合、互いの信頼関係がないとやはり研究は進まないでしょう。繰り返しになりますが、自分に対してあきらめていなく、他人に対して責任感のある人が中井研に来ると、研究を通して実力もつき、研究の醍醐味や喜びも味わえるでしょう。結局、そんな人が中井研向きのタイプと言えるのではないでしょうか。


最後に

中井研は2018年に23年目となります。私の中では、中井研は第三期に入ったという意識があります。初期のメンバーとともに作り上げた態勢・雰囲気などの伝統を引き継ぎつつも、さらなる発展のために変革が求められています。第一期では、研究室内のメンバーの実力差が小さく、皆で一緒に成長するという雰囲気がありました。実際、そのためのさまざまな工夫をしてきました。研究レベルが上がるとともに、メンバー間で実力差ができつつあるのも事実です。しかし、実力差は刺激になり、それを埋めようと努力することでよい研究者へと育つのです。第二期では、大きな研究プロジェクトも遂行し、国内外で中井研のプレゼンスが大いに上がったと思います。国際化も定着し、ゼミはもちろん、日常も英語での会話をよく耳にするようになりました。一方で、学生には初期のメンバーに比べて貪欲さが少し薄れてきたように気もしています。研究室の発展のフェーズと個人の成長のフェーズに少しギャップがあるのかもしれません。第三期として入ってくる諸君には、研究室の発展のフェーズに乗り遅れず、いや、むしろそれをけん引するぐらいの活力を期待します。そのようなことを実践することで、結果的に個人は大いに成長するものです。

もう一つ、第一期・第二期との大きな違いは、私との年齢差です。第一期のメンバーとは兄弟に近い付き合いができました。第二期のメンバーとは少し年齢差がありましたが、スタッフが以前の私の役割をしてくれました。しかし、諸君とは、もはや親子の年齢差です。スタッフとの間にもすこしジェネレーションギャップがあきつつあるようで、(あまり好きではない言葉ですが)「スタッフさん」と学生が呼ぶようになりました。上下を意識しすぎると互いの距離を埋めることができません。上下を無視した付き合いも、不愉快な思いにつながりかねません。人と人との関係は、良い距離感を保つことが肝要です。一緒に研究をし、時には一緒に酒を飲んだり、汗を流したりして、良い雰囲気の研究室を創っていきましょう。研究室の財産は、さまざまな設備ではありません。やはり、人です。人が財産です。研究室にどのような人がいるか、研究室からどのような人が巣立っていくか、それに尽きます。研究室を生かすも殺すも、皆さんにかかっているのです。我こそは、と思う人は是非中井研の門を叩いてみてください。