研究内容1–F EDA, FZOA

1-F.実用的な解析法
EDA | FZOA

EDA

量子化学計算の結果を化学的に理解することは、様々な物理・化学・生命現象の解明、新規材料設計などにおいて非常に重要である。中井研究室では、量子化学計算を解析する手法として全エネルギーを構成原子ごとに分割するエネルギー密度解析(EDAを開発した。さらに、原子間の結合エネルギーを見積る結合エネルギー密度解析(BEDAにも発展させた。EDAは、Mullikenの電子密度解析と同様に、原子軌道を用いて構成原子の寄与を見積る。そのため、分散基底関数を用いると非物理的な値を与える場合がある。そこで、自然原子軌道(NAO)基底を用いた分割(NAO-EDA)により、基底関数依存性を小さくすることができた。

EDAは、もともと原子ではなく空間グリッド上でのエネルギー密度を見積る方法として考え出されたが、これをすべての項で定式化したのがGrid-EDAである。空間グリッド上でのエネルギー密度を、Becke教授の分割関数(Becke’s Partition Function)を用いて構成原子の寄与に分割することでも、基底関数依存性の問題が回避された。さらに、Grid-EDAは平面波基底を用いた第一原理計算にも適用可能であり、大野博士らによって開発された第一原理計算プログラムPHASEに実装された。

種々のEDA関連の解析手法は、数多くの応用研究で用いられ、多くの成果を挙げてきた。また、提案当初は想定していなかった解析手法とは異なる目的でも使用されている。DC電子相関法においては、部分系のうちバッファ領域を除く中心領域のみの相関エネルギーを見積るためにEDAが用いられ、理論的問題が解決された。また、ML-ECにおいて、目的関数である空間グリッドごとのCCSD(T)/CBS相関エネルギー密度の計算にGrid-EDAが用いられた。予期しない理論展開があるのも、研究の醍醐味の一つと言えよう。

 

 

 

重要文献

EDA

  • H. Nakai, “Energy density analysis with Kohn-Sham orbitals”, Chem. Phys. Lett., 363, 73 (2002).
  • Y. Kawamura, H. Nakai, “A hybrid approach combining energy density analysis with the interaction energy decomposition method”, J. Comput. Chem., 25, 1882 (2004).

BEDA

  • H. Nakai, Y. Kikuchi, “Extension of energy density analysis to treating chemical bonds in molecules”, J. Theor. Comput. Chem., 4, 317 (2005).
  • H. Nakai, H. Ohashi, Y. Imamura, Y. Kikuchi, “Bond energy analysis revisited and designed toward a rigorous methodology”, J. Chem. Phys., 135, 124105 (2011).

NAO-EDA

  • T. Baba, M. Takeuchi, H. Nakai, “Natural atomic orbital based energy density analysis: implementation and applications”, Chem. Phys. Lett., 424, 193 (2006).

Grid-EDA

  • Y. Imamura, A. Takahashi, H. Nakai, “Grid-based energy density analysis: Implementation and assessment”, J. Chem. Phys., 126, 034103 (2007).
  • Y. Imamura, A. Takahashi, T. Okada, T. Ohno, H. Nakai, “Extension of energy density analysis to periodic-boundary-condition calculations with plane-wave basis functions”, Phys. Rev. B, 81, 115136 (2010).

Review

  • H. Nakai, Y. Kikuchi, Y. Imamura, “One-body energy decomposition schemes revisited: assessment of Mulliken-, grid-, and conventional energy density analyses”, Int. J. Quant. Chem., 109, 2464 (2009).

<日本語解説>

  • T. Baba, Y. Yamauchi, Y. Kikuchi, Y. Kurabayashi, H. Nakai, “Kohn-Sham DFT法に対するエネルギー密度解析”, Bull. Soc. Discrete Variational Xα, 18, 7 (2005).


 

FZOA

量子化学計算の高精度化には、1電子関数の柔軟な記述のために多くの基底関数が用いられ、平均場を超えた記述のために多配置波動関数が用いられる。しかし、現象の定性的な理解から本質が見える場面にもしばしば遭遇する。福井謙一教授によるフロンティア電子論はまさにその代表と言えよう。中井研究室では、励起状態の直感的な理解を目的として、HOMO-LUMO間の遷移のみを考慮した解析手法の凍結軌道解析(FZOAを提唱してきた。これにより、縮重系励起の対称則の発見や円錐交差構造の支配因子の解明につながった。

 

 

重要文献

FZOA

  • H. Nakai, H. Morita, H. Nakatsuji, “Frozen-orbital analysis for the excited states of metal complexes in high symmetry: Oh case”, J. Phys. Chem., 100, 15753 (1996).
  • T. Baba, Y. Imamura, M. Okamoto, H. Nakai, “Analysis on excitations of molecules with Ih symmetry: frozen orbital analysis and general rules”, Chem. Lett., 37, 322 (2008).