寄付のお願い

新しい抗がん剤開発のために、どうぞ皆様のご寄付を

私たちの研究室では、1996年にAurora Bと呼ばれるキナーゼ(リン酸化酵素)を発見し、この発見を基にして20年以上の歳月を経て臨床の現場で急性骨髄性白血病などの治療に有効な抗がん剤が臨床の現場で使われる様になりました。
治療の地平線に輝く光? | 発癌遺伝子 - 発癌遺伝子 - 2019

 21世紀に入って日本はノーベル賞ラッシュで基礎科学の力が世界でトップクラスであると言われていますが、これは20年以上前の過去の華やかな時代の残像に過ぎないと思います。残念ながら、この20年で日本の基礎科学はほぼ壊滅状態にまで堕ちたというのが現場で研究する私たちの感想です。成果ばかり求められて(成果主義)、5年後にどのように現在の研究が応用可能かと聞かれても、そんなことはトップクラスの研究者でも全くわかりません。なぜならば、その時々の研究者の予想超えた自然の大原理を発見することこそが、エポックメイキングな発見に通じるからなのです。
 ノーベル生理学医学賞を受賞された大隅良典先生は、酵母でのオートファジーの発見が、これ程、様々な研究に応用展開できると考えて研究をスタートし たわけでは全くありません。まさか、ノーベル賞級の発見だとは研究のスタートの時点でご本人は全く予想しなかったでしょう。同じくノーベル化学賞を受賞された下村脩先生は、ただただ光る生物が大好きでその物質が何かを究明したいという少年のような素朴な研究心からGFPという蛍光タンパク質を発見されたのです。しかし、世界中の生命科学の研究室でGFPを使わないところはない程、標準的な研究方法として応用されるようになりました。私たちの研究レベルは彼らとは全く違いますが、私たちの研究室で発見したAurora Bも20年後に抗がん剤へ応用されるなど全く予想していませんでした。本当に大切な基礎研究とは、成果主義とは別次元のところで展開されるものなのです。
 また、もう一つの問題は、拠点的な研究機関に、どかんと重点的に大きな研究費が投入され、逆に地方の国立大学への配分がなくなったため、研究の分野では富士山の裾野がなくなり、日本の科学研究は槍ヶ岳のようなあまりにも歪な構造になりました。一方、拠点的な研究室のビッグラボでは、優秀な研究員が大勢いるために重点的に与えられた予算が一定レベルの水準の論文となり、投資した予算のリターンが確実にあります。しかし、ほとんどが、欧米の後追いのようなつまらない研究ばかりで、たとえ、impact factorが高い論文となったとしても、エポックメイキングの発見やノーベル賞級の誰もが予想しないような大発見には繋がらないのです。
 私はアメリカで、ハーバード大学と地方の州立大学で10年間、研究を続けてきましたが、地方大学に行っても世界のトップクラスの研究者がゴロゴロいました。富士山型の裾野のとても広い研究システムがちゃんとアメリカでは機能しているのです。地方大学でも切磋琢磨して優秀な研究者の業績を評価し、トップ大学は優秀な若い人材をヘッドハントしようと努力します。良い意味で拠点のセンター研究機関と地方の研究機関がお互いにポジティブ・フィード バックして、国内のサイエンスのレベルを互いに活性化しているのです。なので、必ずしもハーバード大、MIT、スタンフォード大学などの拠点的な大学だけではなく、むしろ、地方大学の若い研究者が驚くべき発見をするような環境がアメリカではどの地方大学へ行ってもちゃんと整備されているのです。そしてこのような才能のある地方の研究者をヘッドハントするので、ハーバード大、MITの教授が大勢ノーベル賞を受賞しているだけで、本来、ノーベル賞級の発見をしたのは彼らが若い頃の地方大学での発見であることが少なくないのです。日米の研究環境を比較した時、日本の地方の国立大学の研究の底力を根底から崩壊した、今日の教育と研究に対する驚くべき愚鈍な政策は日本の基礎研究において致命的な過ちを犯したことが鮮明になります。このような状態 では日本は少なくとも50年以上は世界的なレベルには復活できないでしょう。
 以下をどうぞ参照してください。私が指摘する以上に、現在の日本の基礎研究は驚くほど惨憺たる状態になっています。
「日本人はもうノーベル賞を獲れない?深刻な科学技術立国の危機」(週刊ダイヤモンド編集部)

 また、民間の研究はどうかと言うと、日本の製薬会社の研究開発は、20-30年前と比べると目も当てられないほど低下しています。現在の製薬会社は まるで投資会社の様になりM&Aにしか興味を持たず、研究開発部門のトップと話しても基礎的な研究の知識を持つ担当者がほとんどいなくなりました。ノーベル賞を受賞された本庶先生が、対価を巡る分配金の支払いを求めて企業と訴訟沙汰になっていますが、基礎研究には途方もなく地道な研究が必要で、その様なことには製薬会社はほとんど関心を持たず、研究開発する能力を持つ研究者を自社で長年育成しなかったのに、ただ儲けることだけしか考えない日本の製薬会社に対する本庶先生の強い怒りが背景にあるのです。けして本庶先生は利益が自分に入らないと裁判沙汰にしているわけではありません。日本の基礎研究を考えての純粋な動機からなのです。
 基礎科学の研究環境では、例えば、私の研究室では、細胞生物学研究に欠かせない12年前のスクラップのような共焦点顕微鏡の維持費すら公費で賄われず、設置場所の部屋の賃貸費用(120万円)すら払うことができず、移動とメインテナンスだけに50万円以上をポケットマネーで支払い、さらに共焦点顕微鏡の購入費のうち500万円近くを退職金で支払うという条件で購入しているような、「コミック雑誌なんかいらない!」という笑えない状態なのです。これでは、世界のトップクラスの研究室では30分で解析できるデータを10時間以上かけてもできず、さらに解像度があまりにも低いので論文として 認められないような機器に500万円近くの借金を退職金で支払うという惨憺たる状態なのです。これは序の口に過ぎません。まるでオリンピックの 100m競争で、両足に10kgの重りをそれぞれつけられて、9秒台の選手たちと国際競争するようなものです。このような環境で優秀な学生が研究したいと思うでしょうか? 日本の優秀な学生たちが、先を見通して研究の現場から離れていくのは当然です。
 しかし、この様な絶望的な研究環境の中でも、私たちは、1996年に発見したAurora Bの新しい機能を発見し、2019年に急性骨髄性白血病の原因と治療に関して論文を発表(link)しました。さらに、メラノーマ(悪性黒色腫)の発症の分子機構や、がん遺伝子であるRasの新しいシグナルと、これらの発見に基づく全く新しい抗がん剤開発に関してまもなく論文を発表する予定です。驚くほど miserable(悲惨)な環境の中で私たちはギリギリのところで日夜、何らかのより良い道はないかと模索し努力し使命感を持って研究を続けている のです。
このような絶望的な環境にもかかわらず、私たちは途方もない大きな夢を諦めずに抱いています。私たちが最終的にターゲットにしているのは、がん患者の 3分の1以上を苦しめるRasと呼ばれるがん遺伝子です。1981年に初めてヒトのがん遺伝子としてWiglerとWeinbergによってRasが発見されました。私たちの2人に1人が一生のうちでなんらかのがんになり3分の1が、がんで亡くなります。そしてがん患者のうち3分の1以上が、 Rasの変異でがんになります。Steve Jobsや私の父が死亡した原因の膵臓がんの90%以上がRas遺伝子の変異がドライバー(原因)となります。しかし、膵臓がんに有効な治療薬は現在のところ全くありません。そのため、全世界のメガ・ファーマ(国際的な巨大製薬企業)はRasをターゲットとする抗がん剤の開発を30年以上かけて行ってきました。Rasを分子標的とした薬の研究に一社だけでも数百億円の資金とトップクラスの研究者を投入して研究開発を行ってきましたが全てのメガ・ファーマは大失敗に終わり撤退しました。30年以上の研究開発で、”人類の最大の夢の一つ”と期待された抗がん剤を求めながら敗北に次ぐ敗北で、Rasの暴走をどのメガ・ファーマも喰い止めることすらできませんでした。
 しかし、私たちは、地道にこの惨めな研究を続けようやくRasシグナルを完全に遮断し、がん細胞のみを殺す方法を見つけました。特許の関係があるため具体的にはまだ説明できないのですが、30年間研究を続けてきてRasを正確にロックオンし治療に結びつけることができる道をようやく世界で最初に見つけたと確信しています。しかし、抗がん剤開発には気の遠くなるような研究開発費と時間と優秀な人材が必要となります。
 Aurora Bの発見から今日に至るまで人生の半分のライフワークを達成しましたが、残念ながらまだ、これらの成果は特殊ながんに対する抗がん剤開発にすぎません。なので、まだ、残りの半分が達成されていません。残りの半分のライフワークとは、人類にとって最大、最悪のがん遺伝子であるRasシグナルを遮断することです。これができれば、世界で苦しむがん患者の3人に1人を助けられるかもしれません。この仕事は研究人生において、miserableの連続で今にも逃げ出したいくらい、布団を頭から被って過去の失敗を全て忘れたくなるような、胃が毎日キリキリ痛くなるような大失敗の連続でした。しかし、30年間研究を続けてきて、ようやくRasを射程距離に捉えロックオンするところまできました。私たちはこの最終目標に向かって1日でも早く理想の抗がん剤開発を実現できる様に日々研究に努力しています。
 日本人として最初にノーベル生理学医学賞を受賞した利根川進博士は、「アメリカでは研究費の半分以上は公費ではなく民間の寄付によるもので、そのために、MITのビルディングは寄付していただいた方の名前が付けられている。日本では大蔵省(現財務省)が寄付金に対して税の控除を認めないために民間の寄付文化が全く育たないんだ」と話されていました。残念ながら、日本では民間のこのような寄付文化がアメリカほど盛んではありません。しかし、国レベルの公的な研究支援がほとんど期待できない現在では、皆さま民間のご支援に私たちの基礎研究を頼るしかありません。私たちは皆さまの大切な1円のご寄付も無駄にすることは絶対にありません。私たちの目的は、なんらかの利益を得ること、名誉を得ることではなく純粋に人類に貢献することにありま す。

利根川先生と私

大学の寄付金の窓口は以下です。個人へ寄付金ではなくこのシステムを通じて、皆様の寄付金が大学に2割、研究室の研究資金として8割、有効に、そして公正に活用することができます。

理工学術院研究総合支援課

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