研究内容


Tips : 反応速度論について・・・


化学は物質の構造および性質、そして物質相互間の変化すなわち化学反応を研究する学問領域です。

出発物Sが生成物Pに変化する一連の化学反応を理解するには、SとPの構造を明らかにする必要があります。
しかし構造が明らかになったとしても、SからPに至る一連の過程は未知のままです。
副反応・逆反応や中間体の存在によって複雑になった反応の経路を明らかにするのが反応速度論的解析です。

反応を解析するには、反応の速さ(反応速度)を測定しなければなりません。
反応速度は反応における濃度の経時変化であり、分光光度法や、電気分析法,磁気共鳴法など用い間接的に測定します。(Figure 1)
化学反応はピコ秒で終わる場合や、数時間から数日まで至る場合があります。 当研究室では、主に分光光度法によって秒~分単位で収束する反応を追跡しており、 通常の分光光度計では測定できない速い反応(秒単位)の経時変化においてはストップトフロー法を用いています。(Figure 2)

測定された反応速度は、分子構造や濃度、温度、圧力といった反応条件の影響を受けます。
この反応速度を基に反応を解析することによって、反応メカニズムを明らかにし、化学反応の実像を理解することができます。

このように、私達は反応速度論的解析から「いかに現象を理解するか」を研究しています。

Figure 1




Figure 2




ボロン酸と糖の反応機構に関する速度論的研究 (石原・岩月)


背景

ボロン酸と糖は可逆的に反応することが知られ、この反応はセンサーなど様々な領域に応用がされてきた。しかしながら、高機能な性能を示すセンサーが報告されている一方で、 反応に関する研究は不足してるのが現状である。例えば、糖センサーは主にアルカリ性水溶液中でのみセンサーとして働くことから、 アルカリ性での主な化学種であるボロン酸イオンの方がより反応性が高いと考えられてきた。
反応性に関する速度論的研究もこれまで行われてきたけれども、これら報告された値は上限値に過ぎない。これはproton ambiguityによる影響によって、 二種類の速度論的に区別できない経路が存在するためである。
当研究室はこれまでボロン酸とジオール類の反応機構に関する研究を速度論的なアプローチによって行ってきた。
その結果、
①アルカリ性溶液条件下でも、三配位ボロン酸は四配位ボロン酸イオンよりもはるかに反応活性である[1]
②溶液中には三配位ボロン酸エステルは存在しない[2]
を明らかにした。以上の実験的証拠はボロン酸型レセプターを設計する際の合理的な設計指針を与える結果となった。

[1] S. Iwatsuki et al., Inorg. Chem., 2007, 46, 354-356.
[2] Y. Furikado et al., Chem. Eur. J., 2014, 20, 13194-13202.


Figure 1.1



Fugure 1.2




現在の研究

ボロン酸とジオールの反応に関する研究から有益な実験的知見が得られた。したがって、現在はより高次な化合物である糖類とボロン酸の反応機構に関する研究を行っている。 研究対象にはD-フルクトース[3]、D-ソルビトール、D-グルコースが含まれる。

[3] Y. Suzuki et al., ChemistrySelect, 2016, 1(16), 5141-5151.


Figure 1.3


Figure 1.4


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白金錯体の反応性に関する基礎研究 (石原・岩月・菅谷)

背景
白金(II)錯体や白金(IV)錯体に関する研究はおおいに進んでおり、それらの諸性質は明らかにされています。
例えば、白金(II)錯体には触媒作用があり置換不活性であることが知られています。
一方、白金(IV)錯体は、白金を王水に溶かすことで[PtCl6]2–として容易に得られますが、極めて置換不活性で、その配位子置換反応は酸化還元反応を伴います。
ところが、これらの置換不活性な白金(II)錯体と白金(IV)錯体の間の配位子置換反応は、非常に速やかに起こることが旧くから知られています。 その反応機構においては置換活性な白金(III)二核錯体の生成が仮定されています。

白金(III)は特異な酸化状態であり、通常、単核錯体ではなく白金-白金結合を含む二核錯体として存在し、 合成例も少なかったため、白金(III)錯体の反応性や反応機構はあまり解明されていませんでした。

当研究室では、このような特異で興味深い酸化状態の白金(III)錯体の反応性や反応機構を明らかにするために、溶液反応化学的基礎研究を行ってきました。




Figure 2.1

現在の研究
U字型二架橋白金(III)二核錯体は、軸位に置換活性な部位を有し様々な配位子により置換反応が起こることが分かっています。

例えば、ハロゲン化物イオンを加えると上下の軸位の水分子が容易に置換し、ジハロ錯体を生成します。
また、オレフィンケトンを加えると、白金(III)二核錯体の片方の軸位に炭素でσ結合した有機金属錯体を生成します。

当研究室ではこれらのハロゲン化物イオンやオレフィン等との反応生成反応機構の解明を行ってきました。
現在、四架橋または三架橋アミド配位子を有する白金(III)二核錯体の軸位における配位子置換反応機構の解明、および白金(III)二核錯体の反応性に及ぼすエカトリアル配位子の効果の検討をしています。



Figure 2.2


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発光性有機化合物・金属錯体の合成およびホウ素の定量 (石原・菅谷)

背景
現在、水資源の乏しい諸外国では逆浸透膜に海水を通過させることで、海水中のイオンを除去し海水の淡水化を行っています。
しかし、海水中ではそのほとんどがイオン化していないため、逆浸透膜を通過してしまうことが知られています。(Figure 3.1)
安全な水環境を確立するために水溶中のホウ酸濃度を正確にモニタリングするためにホウ素定量試薬が必要とされています。

しかしながら、現在行われているホウ素化合物の定量法には操作が煩雑・検出感度が低い等の問題点があります。



Fugure 3.1


現在の研究
これらの欠点を打開するために当研究室では、ボロン酸の反応性に関する基礎研究の結果に基づき、高発光性金属錯体高発光性蛍光色素を利用したホウ素の定量を提案しています。

即ち、ホウ素との反応部位を有する高発光性の化合物(Figure 3.2)を合成し、反応に伴う発光特性の変化を利用することでホウ素の高感度分析が可能になると期待しています。(Figure 3.3,3.4)
それに伴い、ジオール部位を有する新規金属錯体の合成、構造決定・諸物性の解明といったキャラクタリゼーションから、ホウ酸のセンシングへの応用までの研究を行なっております。

Figure 3.3

Figure 3.4


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発光性金属錯体の合成および糖類の定量 (石原・菅谷)

背景
糖センサーは、血糖値の測定などの医療目的や微量分析などの化学的利用など、幅広い分野で活用されており、重要なものとなっています。

糖センサー化合物の分類として、大きく酵素型ボロン酸型に分けられます。
酵素型センサーは、酵素自身の分子認識能を利用しておりすでに実用化されていますが、過酷な環境下では耐久性に難が生じます。
一方、ボロン酸型のセンサーは多くは低分子有機化合物のボロン酸誘導体によるものであり、比較的強固置換基修飾による多様化が可能です(Figure 4.1)。
しかし、これらのセンサーには、発光・励起波長が短い、糖との反応前後における色調の変化が乏しいといった問題があります。


Fugure 4.1


現在の研究
 有機ボロン酸センサーの欠点を打開するため、金属錯体を利用した糖センサーの合成に取り組んでいます。

金属錯体は、有機EL発光素子として実用利用されているなど、高い強度を伴った特異的な発光特性を有することが知られています。
このような性質を持つ金属錯体にボロン酸部位を導入することで、高感度な糖定量試薬の構築が期待されます。
当研究室では、ボロン酸部位を有するイリジウムや白金錯体を新規に合成しています (Figure 4.2) 。
これらの合成した錯体の構造決定・物性の解明から、発光特性を利用した糖の定量までの研究を行っています (Figure 4.3,4.4)。

Figure 4.3

Figure 4.4


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