混合原子価錯体の電子移動速度の電解分光法による研究

 混合原子価錯体とは一つの錯体内に異なる酸化数をもつ金属の存在する錯体である。
 混合原子価錯体ではユニットに単独では発現しない機能が発現するため興味が持たれる。
Ru三核錯体をユニットとした二量体
図1 Ru三核錯体をユニットとした二量体
 当研究室ではルテニウム三核錯体をユニットとした二量体を合成し、そのユニット間の混合原子価状態における分子内電子移動速度を電解赤外吸収スペクトルの線形解析から求めている.二量体は架橋位BL(ピラジン、4,4'-ビピリジンなど)、末端配位子L(ピリジン、4,4'ジメチルアミノピリジンなど)、支持配位子D(主にCO)からなる。

 例としてBLがピラジン,Lが4,4'ジメチルアミノピリジン,DがCOの時のCVとカルボニル伸縮振動スペクトルを示す。
ピラジン架橋二量体のCV 電解IRスペクトル
図2 ピラジン架橋二量体のCV 図3 電解IRスペクトル
 単離状態では各三核ユニットの電荷は0である。CV測定から還元側では1電子ごとに還元が起こっており、一つの三核ユニットの電荷が−1である骨格間の混合原子価状態が安定に存在することがわかる。各還元状態のIRスペクトルをみると、混合原子価状態である1電子還元状態のピークが単離状態と2電子還元状態のピークの間にブロードになって現れている。これは分子内電子移動速度がIRのタイムスケールと同等になっていることを示しており、このピークの線形を解析することでその速度を求めることができる。

 この研究の発展として、BLやLを変えた三核錯体の二量体の合成やDを変えた三核錯体の合成、二量化について研究を行っている。


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