研究ハイライト
研究レビュー |
位置規則性ポリ(3-オクチルチオフェン) (P3OT)と[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methy ester (PCBM) の混合物(pn-バルクへテロ接合)は,有機薄膜太陽電池の材料として,高い光電変換効率を示す.有機薄膜太陽電池では,太陽光により発生する励起状態から電荷分離をへて,自由に動くことができる正と負のキャリアが発生して,それらが電極に到達することにより電池として動作する.正キャリアはP3OT上に生成し,正ポーラロンと呼ばれている.正ポーラロンは,非常に強い赤外吸収を与えることが知られており,赤外分光により,正ポーラロンを直接,観測することが可能である.本研究では,FT-IR差赤外分光法を用いて,P3OT/PCBM混合物薄膜の光誘起赤外吸を測定し,その温度変化から,キャリア再結合過程に関する活性化エネルギーを求めた. P3OT/PCBM混合物フィルム(P3OTとPCBMの重量比,1:0.7;15 mol%)の光誘起赤外吸収(78 K)を図1(a) に示した. ![]() 図1(a) P3OT/PCBM混合物フィルムの光誘起赤外吸収(78 K)と(b) 1256 cm-1の吸光度のln(1/A2) 対1/Tプロット. |
幅広い吸収に複雑な微細構造をもつスペクトルが観測された.これは,ポーラロンの電子吸収帯と振動遷移の干渉効果に由来することが報告されている.温度を変えて,光誘起赤外吸収を測定すると,温度が高くなると吸収強度が弱くなった.この結果は,正ポーラロンと負キャリア(PCBMのアニオンラジカル)の再結合速度が速くなったことを示唆している.そこで,正キャリアPと負キャリアNの再結合過程を以下の速度方程式で表した.
ここで,Iaは励起状態の生成速度で,f は電荷分離の有効効率,kr は再結合速度定数である.正キャリアの吸光度は A = σl[P] と表される.速度定数krが,活性化エネルギー ΔE を用いて,次式で表されるとする.
ここで,kBはボルツマン定数,Cは比例定数である.定常状態近似をすると,
となる.したがって,ln(1/A2) を1/Tに対してプロットすると,その傾きからΔEを求めることができる. 図1(b)に,1256 cm-1の吸光度に関して,ln(1/A2) を1/Tに対してプロットした.130 Kより低い温度と高い温度で二つの直線で近似できる.このような現象は,活性化エネルギーの異なる2種類の並列過程が存在することを示している.傾きから,活性化エネルギーを求めると,11と80 meV であった.80 meVは正キャリアの高分子鎖間移動に伴うトラップに由来すると考えた. |
研究実績 ● 原著論文 1. "Molecular Stacking Induced by Intermolecular C−H N Hydrogen Bonds Leading to High Carrier Mobility in Vacuum-Deposited Organic Films" D. Yokoyama, H. Sasabe, Y. Furukawa, C. Adachi, and J. Kido Adv. Funct. Mater., 21, 1375-1382 (2011). ● 総説,単行本など 1. 「赤外分光測定法−基礎と最新手法 第U部各種測定法 第11回 19. フーリエ変換ラマン分光法」 ● 依頼講演 1. "Infrared and Raman Spectroscopy of Organic Electronic Devices" 2. "Infrared Studies of Organic Solar Cells" 3. "Raman and Infrared Studies of Organic Electronic Devices" 4. "Infrared and Raman Spectroscopy of Organic Thin Films Used for Electronic Devices" 5. "Infrared and Raman Spectroscopy of Organic Light-Emitting Diodes, Thin-Film Transistors, and Solar Cells" 6. 「赤外・ラマン分光法による有機薄膜の構造解析」 7. 「赤外・ラマン分光法による有機薄膜の構造解析」 8. 「顕微ラマン分光法による有機薄膜の構造解析」 ● 学会発表 1. ITO/MoO3/α-NPD薄膜におけるα-NPDカチオンのラマンイメージング 2. 光誘起赤外分光法によるP3HT/PCBMバルクへテロ薄膜中のキャリア検出 3. 赤外多入射角分光エリプソメトリ−による正孔輸送材料の分子配向解析 4. 一軸配向したシングルサブミクロン共役高分子ファイバーの物性評価 5. ラマンおよび核磁気共鳴分光法による混合アミン溶液とCO2の反応に関する研究 6. イッテルビウム触媒を用いたジヒドロピリジン類合成法の開発およびその蛍光特性 7. 光誘起赤外分光によるP3HT/PCBMバルクへテロ薄膜中のキャリア検出(2) 8. ナイロンを絶縁層に用いた有機電界効果トランジスタ型メモリー 9. 赤外・ラマン分光によるP3HT:PCBMバルクへテロ接合薄膜の固体構造に関する研究 10. ラマン分光法と密度汎関数法を用いたCBPのアモルファス状態の構造に関する研究 11. 光誘起赤外分光法を用いたポリ(3-アルキルチオフェン):PCBM混合薄膜におけるキャリア再結合過程に関する研究 12. ラマン分光法による五酸化バナジウムと有機半導体の相互作用に関する研究 ● 研究助成 1. グローバルCOE「実践的化学知」教育研究拠点(分担) 2. 早稲田大学特定課題研究助成費 特定課題B 3. 早稲田大学理工学術院総合研究所・JX日鉱日石エネルギー連携活動協定フィージビリティスタディ研究 |